OECC 技術・広報部会は、2023年10月1日から7日まで、6年ぶりとなる海外調査ミッションをフィリピンのマニラ市で実施しました。
コロナの制約を考慮し、海外経験の浅い20~30代の若手コンサルタント6名とOECC事務局3名の計9名で構成される調査団が結成されました。
環境開発協力の推進を目指し、フィリピン国政府、地方自治体、国際機関、日本国関係機関などを訪問し、現地視察を通じて情報収集やディスカッションを行いました。
※本記事はOECC会報 特別号2024年2月をもとに作成しています。
調査概要
フィリピンはASEAN諸国で人口第2位、平均年齢が25歳と若く、英語を話せる人材が多いため、ASEAN域内で最高の経済成長率を維持しています。しかし、インフラ整備率がASEAN域内最下位であるなど様々な課題に直面しています。特に首都メトロマニラでは急激な人口増加による交通渋滞や人為的影響による洪水が深刻な問題となっており、継続的な支援を必要としています。
調査団は気候変動に強靭な開発(CRD: Climate Resilience Development)を重点に、自然災害、廃棄物管理、大気汚染、水質管理、水資源の保護などの環境課題に焦点を当て、調査を実施しました。
調査結果は報告書(*会員限定)にまとめ、2023年12月21日の会員向け報告会で各団員より報告しました。
フィリピンは経済成長と共に深刻な環境課題に直面しており今後も支援を必要としているなか、本調査における現場視察や、政府・機関等との意見交換は今後の環境協力を推進する上で、重要な成果をあげることができました。
フィリピンでは災害全体の中で、風水害が死者数の82%、被害額の95% を占めるなど、リスクの大きい風水害への対策が開発上の優先課題となっています。このため、JICAが取り組むパッシグ・マリキナ川河川改修事業の洪水警報システムや河川の浚渫、非正規住民者の移転状況などを現地で確認し、またサンタローサ市ではラグナ湖周辺地域の洪水リスク・治水対策について調査しました。(写真1)
写真 1:非正規住民の河川域への張り付きは放水路の機能不全などを引き起こし
洪水の原因となっているため、住民移転の対象となっている
CAAの支援を受けたパイロットプロジェクトとしてケソン市では大気環境基準達成のため LCS(ローコストセンサー)用いた、基準局と非基準局を組み合わせた観測網の構築が進められております。基準局(Reference Station)と比べ精度は劣るものの設置・維持管理が安価でリソースが限られた開発途上国のニーズにマッチしており、フィリピン全土への拡大が期待されています。(写真2)
フィリピンでは自治体が収集した廃棄物はコスト面からオープンダンプ方式で処分される事例が多く、法の施行により管理型埋立方式や衛生管理方式への転換が進んでいます。調査団は、パヤタスの、かつて悲劇的な崩落事故が起きたオープンダンプが転換した管理廃棄物処分場を訪れました。
写真2:ケソン・シティ・ポリテクニック大学構内に設置されている基準局としての
大気汚染モニタリング局及び併設する非基準局を視察
団長コメント
大村 卓(OECC 参与) |
現地では、開発に起因する洪水に有効な対策を打てぬ市政府、マニラ湾の破壊を進める埋め立てに無力な行政などの苦悩を肌で感じ、その社会背景に触れることができました。一方で、国際的な支援も得て気候変動対策に精力的に取り組む市・中央政府、衛生埋立への転換を急速に進める廃棄物行政、新しい環境保全の仕組みに取り組むADB、非正規住民移転に苦労しつつ数十年かけ洪水対策を進めるODA事業など、着実な動きも学ぶことができました。参加者が気づきを大事にし、環境開発協力の各現場で活かしていく機会となれば、事務局として嬉しく思います。 |
OECC会報
他の団員からのコメントは会報 特別号2024年2月をご覧ください。
OECC会報 特別号2024年2月